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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(れ)762号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人本人の上告趣意第一点について。

原判決は原審公判廷における所論被告人の供述の外原判決挙示の証拠を綜合して判示強盗幇助の事実を認定しているのである。そしてこの原審のなした事実認定は、その認定資料とされた証拠に照らしこれを肯認するに難くないのである。しかも被告人が原審公判廷で原判決摘録のような供述をなしていることは記録上明らかである、されば原判決には所論のような違法はなく、所論は畢竟事実審である原審の裁量権に基ずく証拠の取捨判断乃至は事実の認定を非難するに帰着し、上告適法の理由とならない。

同第二点について。

原審は被告人が牧忠男等から頼まれ盗品であることを知りながら判示物件を預ったものであることを認定しているのであり、この事実認定は原判決挙示の証拠を綜合すれば、これを肯認するに難くないのである。所論司法警察官の聴取書中の被告人の供述が司法警察官の誘導尋問によるものであるということは、唯被告人が主張するだけであって、これを窺い得べき証跡は記録上存在しない。そして賍物罪においても未必の故意を以て犯罪の成立すること勿論であるから、右被告人の供述が所論知情の点を認定する資料たり得ることは、その供述の内容自体に徴し明らかである。されば原判決には所論のような違法はなく論旨は理由なきものである。

同第三点について。

銃砲等所持禁止令にいわゆる所持とは犯人が銃砲等を自己の実力支配下に置くことを意味するのであるから、苟くもかかる事実の認識ある以上所謂不法所持罪の犯意ありとなし得ること勿論であって、積極的に目的物件を預るという意思の下に所持を開始したか否かというが如き事実は、もとより犯罪の成否を左右するものではない。被告人は原審公判廷で正に前説示の所謂所持に該当する事実を自供しているのであって、原審がこれを判示事実の認定資料に供したとしてもこれを捉えて所論の如き違法ありとなすことはできない。論旨は採用に値しない。

なお、被告人は家庭の事情等を訴え執行猶予の判決を求めているが所論は事実審である原審の裁量権に属する刑の量定を非難するに帰着し上告適法の理由とならない。

弁護人小林保治上告趣意第一点について。

記録を精査するに、所論司法警察官の被告人に対する訊問には何等違法とみるべき点なく、その訊問調書もまた適法に作成せられていることが認められる。所論は、旧刑訴一二九条によりなさるべき検察官の被告人に対する訊問がなされなかったことを前提とし、これにより右司法警察官の訊問調書が違法となりその証拠能力を欠如するに至ると主張するのであるが、所論検察官の訊問は、昭和二三年七月三一日佐野区検察庁検察官事務取扱検察事務官石川秀雄によってなされていることが記録上認められるばかりでなく、既に司法警察官によって適法に訊問され適法に作成せられたその訊問調書が爾後の手続における検察官の訊問の有無によってその証拠力を左右せらるべきいわれは存在しないのであって、論旨はいずれの点よりするも到底採用することはできないのである。

同第二点について。

公判で如何なる限度まで証拠調をなすべきかは、事実審裁判所の合理的裁量に委ねられているところである。記録上窺い得る原審における訴訟の経過に鑑みれば、所論証拠申請の却下が被告人のためその証拠提出の途を不合理に遮断したものとは認め得ないばかりでなく、刑訴応急措置法一二条の適用上にも何等関係するところはないのである。すなわち原審はその取調申請を却下した証人による供述書類を事実認定の資料に供してはいないからである。されば原判決には所論のような違法はなく論旨は理由なきものである。

同第三点について。

所論田中実提出にかかる被害顛末書の作成年月日に所論のような訂正の存することは、論旨の指摘する通りである。しかし、かかる作成年月日の訂正があるからというて、直ちにその被害顛末書の証拠力を皆無ならしめるとはいい得ないばかりでなく、該被害顛末書に押捺されてある受附印によれば右書面が警察署に受附けられたのが昭和二三年七月三一日であることが認められるのであって、これによりその訂正が単なる誤記の訂正として理由あるものたることが窺われるのである。また論旨は、右被害顛末書の被害者欄及び被害状況欄中犯人侵入の方法に関する記載と原審が採用しなかった奥島敬夫に対する司法警察官の聴取書の記載との間に互に抵触するものであることを指摘し、右被害顛末書の証拠となすべからざることを主張するのであるが、相矛盾する証拠の存する場合そのいずれを採用するかは、事実審における裁判官の自由心証により決せらるべき問題に過ぎない。所論は畢竟事実審である原審がその裁量権の範囲内において適法になした証拠の取捨乃至は事実の認定を非難するに帰着し、上告適法の理由とならない。

同第四点について。

原審が判示第二の(一)の賍物寄蔵の事実を認定したのは、所論岡本寅蔵提出の盗難届書写の外、原判決摘録にかかる原審公廷における被告人の供述と、被告人に対する司法警察官の聴取書中の供述記載とを証拠としたものである。原審が所論盗難届書写を綜合認定の資料に加えたのは、右届書写には同人の盗難被害顛末が記載されてあり、原審は主としてこれによって被告人の保管した物件が右の盗品であったとの客観的事実を明らかにし、その他の事実関係は他の引用証拠によってこれを証明せんとしたために外ならない。そしてそれらの証拠を綜合すれば原審のなした右事実の認定は、これを肯認するに難くないのである。されば原判決には所論のような違法なく所論は結局事実審である原審の裁量権に属する事実認定を非難するに帰着し上告適法の理由とならない。

同第五点について。

原審が判示第二の(三)の事実を認定したのは、所論堀越喜久雄提出の盗難届書写の外原審公廷における被告人の供述をも証拠としているのである。所論はこれら綜合認定の資料の一たる右届書写に判示に符合しない記載があることを指摘するのであるが、原審が認定資料の一として引用した被告人の供述中には判示に符合する自供が存在するのであり、しかもこの両者は必ずしも互に相排斥するものではないからこれらを綜合するにおいて、所論原審の事実認定を肯認するに難くないのである。所論は事実審である原審がその裁量権の範囲内において適法になした事実認定を非難するに帰着し上告適法の理由とならない。

よって旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 齋藤悠輔)

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